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男の子の機嫌

 

色の浅黒い、目の少しぎょろりとした継母は匆々にお辞儀をして出て行って、葉子は子供のふざけているのに顔を崩しながら、書生たちにもお愛相よくふるまっていた。やがて書生たちも、烏賊の刺身や丸ごと盆に盛った蟹などを肴にビールを二三杯も呑んで、引き揚げていった。

 その晩、庸三が煩く虫の集まって来る電燈の下で、東京の新聞に送る短かいものを書いていると、その時から葉子は発熱して、茶の間の仏壇のある方から出入りのできる、店の横にある往来向きの部屋で床に就いてしまった。触ると額も手も火のように熱かった。顔も赤くほてって、目も充血していた。

「苦しい?」

「とても。熱が二度もあるのよ。それにお尻のところがひりひり刃物で突つくように痛んで、息が切れそうよ。」

「やっぱり痔瘻だ。」

 庸三にも痔瘻を手術した経験があるので、その痛みには十分同情できた。彼女はひいひい火焔のような息をはずませていたが、痛みが堪えがたくなると、いきなり跳ねあがるように起き直った。それでいけなくなると、蚊帳から出て、縁側に立ったり跪坐んだりした。

 もちろんそれはその晩が初めての苦しみでもなかった。もう幾日も前から、肛門の痛みは気にしていたし、熱も少しは出ていたのであったが、見たところにわかに痔瘻とも判断できぬほど、やや地腫れのした、ぷつりとした小さな腫物であった。

「痔かも知れないね。」

 彼は言っていた。

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