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どこかに苦労人のようなところのある女

 

「どうせこんなところですから、おいしいものは出来ませんけれど……さあ何がいいんでしょうね。」と、相手の柄を見て、自分で取り計らおうとするような風を見せた。「なにかといっても種がありませんものですからね。それよりか鶏がいいじゃありませんか。お寒いから……。」 笹村は何も食べたくはなかった。ただこの女の口からこの家のことを探りたいばかりであった。「ねえ、そうなさい。」 頭から爪先まで少しも厭味のないその女は、痩せた淋しい顔をして、なにかとこまこました話をしながら、鍋に脂肪を布いたり、杯洗でコップを手際よく滌いだりした。「ここの子息さんはどうしたい。まだ入牢っているのかい。」 笹村は行けもせぬビールを飲みながら、軽い調子でそんなことを訊き出した。「え、まだ……。」 女は驚きもしなかった。そのころの家の馴染みと思っているらしかった。「その時分に来ていた嫁さんはどうしたんだね。」 笹村はお銀のことを言い出した。

けれど笹村は、その女からあまり立ち入った話を聴くことが出来なかった。お銀の暗面をどこどこまでも掘じくり立てようとしているような自分の態度にも気がさして来たし、女も以前のことは詳しく知らなかった。笹村は時々深入りしようとしては、他の話に紛らした。

上越の美容院

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