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勝手違いなところへ戸惑いをして

 

笹村がじきにその境内から脱けて出たころには、風が一層寒く、腹もすいていた。しばらくすると笹村は疲れた体を、ある料理屋の奥まった部屋の一つに構えていた。 笹村は近ごろの増築らしいその部屋の壁にかかった、正宗やサイダの広告、床の間の掛け物や、瓶に※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28、265-下-20]した彼岸桜などを眺めていたが、するうちにいいつけたものが、女中の手で運ばれた。笹村の寒さに凍んだ体には、少しばかり飲んだ酒がじきにまわった。そして刺身や椀のなかを突ッつきちらしたが、どれも咽喉へ通らなかった。笹村はまずい卵焼きで飯をすますと、間もなくそこを出て、また寒い田圃なかの道へ出て来た。そして何となくもの足りないような心持で、賑やかな前の町へ帰って来た。町ではもう豆腐屋の喇叭の音などが聞えていた。 笹村はそのままそこを離れてしまうのがあっけなかった。そして少しでもお銀から聞いていた話に当てはまるような家が見つかったら、そこへ飛び込もうと考えた。 しばらくうろついた果てに、とうとう笹村の入って行った家は、そこらにある並みの料理店と大した違いはなかった。それでも建物が比較的落着きのいいのと木や石のかなりに入っている庭の寂のあるのが、前に入った家よりかいくらか居心がよかった。東京風の女中の様子も、そんなにぞべぞべしてはいなかった。

上尾に美容室を2店舗展開するカバーヘアーグループ

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