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そこへ置いた筈のライカが見当らず

 

時間をきかれて、貴子はむっちりと贅肉のついた白い腕を、わざと春隆の前へ差し出した。――田村の二階の一室である。

 貴子は一日に五度衣裳をかえたが、土曜日の夜は、白いショートパンツに白いワイシャツという無造作な服装になることが多かった。男の子のように色気のない服装だが、それがかえって四十女の色気になっていると、この田村の女将は計算していた。

 長襦袢の緋の色で稼げる色気の限界なぞたかが知れている――というのが、十五年前銀座の某サロンのナンバーワンだった頃から今日まで、永年男相手の水商売でもまれて来たこの女の、持論であった。

「エロチシズムよりもエキゾチシズムだわよ」

 大阪でバーを経営していた頃、貴子が女給たちに与えた訓戒である。が、女給たちはその意味が判らなかった。銀座式のハイカラさが大阪では受けるのだと思ったのは、まだいい方で、たいていは外国映画のメーキャップを模倣し、エキゾチシズムとはアイシャドウを濃くして、つけ睫毛を太くすることだと考えたので、グロテスクな効果だけ残って、失敗した。

 貴子が言ったのは、白いショートパンツに白いワイシャツの魅力であった。が、このような服装が成功するには、美貌を前提としている。幸い貴子は美貌であった。しかし、美貌だけが成功するのではない。美貌が成功するには、彼女のいわゆるエキゾチシズムが必要なのだ。男は色気たっぷりの芸者をある程度の金で縛りつけることが出来るのだ。それを自分の方に惹きつけて無制限に金をひき出させるには、もうエキゾチシズムよりないと、貴子は水商売の女の考える限界の中では、まずギリギリの知慧を働かせていた。

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