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其処をも散々遣散して

 

暑い或日の午後に新橋へ入って来たとき、二人の体には、一枚ずつ著けたもののほか何一つすら著いていなかった。 鼻息の荒いお島たちは、人の気風の温和でそして疑り深いN――市では、どこでも無気味がられて相手にされなかった。一月二月小野田の住込んでいた店では、毎日のように入浸っていたお島は、平和の攪乱者か何ぞのように忌嫌われ、不謹慎な口の利き方や、遣っぱなしな日常生活の不検束さが、妹たち周囲の人々から、女雲助か何かのように憚られた。著いて間もない時分の彼女から、東京風の髪をも結ってもらい、洗濯や針仕事にも働いてもらって、頭髪のものや持物などを、惜気もなげにくれてもらったりしていた妹は、帯や下駄や時々の小遣いの貸借にも、彼女を警戒しなければならないことに気がついた。「そんなに吝々しなさんなよ、今に儲けてどっさりお返ししますよ」 それを断られたとき、お島はそう云って笑ったが、土地の人たちの腹の見えすいているようなのが腹立しかった。自分の腕と心持とが、全く誤解されているのも業腹であった。 小野田にも信用がなく、自分にも働き勝手の違ったような、その土地で、二人は日に日に上海行の計画を鈍らされて行った。二人は小野田が数日のあいだに働いて手にすることのできた、少しばかりの旅費を持って、辛々そこを立ったのであった。 一日込合う暑い客車の瘟気に倦みつかれた二人が、停車場の静かな広場へ吐出されたのは、夜ももう大分遅かった。

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