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痛い足を引摺って

 

長い漂浪の旅から帰って来たお島たちを、思いのほか潔く受納れてくれた川西は、被服廠の仕事が出なくなったところから、その頃職人や店員の手を減して、店がめっきり寂しくなっていた。 そこへ入って行ったお島は、久しい前から、世帯崩しの年増女を勝手元に働かせて、独身で暮している川西のために、時々上さんの為るような家事向の用事に、器用ではないが、しかし活溌な働き振を見せていた。 前にいた職人が、女気のなかったこの家へ、どこからともなく連れて来て間もなく、主人との関係の怪しまれていたその年増は、渋皮の剥けた、色の浅黒い無智な顔をした小躯の女であったが、お島が住込むことになってから、一層綺麗にお化粧をして、上さん気取で長火鉢の傍に坐っていた。 始終忙しそうに、くるくる働いている川西は、夜は宵の口から二階へあがって、臥床に就いたが、朝は女がまだ深い眠にあるうちから床を離れて、人の好い口喧しい主人として、口のわるい職人や小僧たちから、蔭口を吐かれていた。 お島は女が二階から降りて来ぬ間に、手捷こくそこらを掃除したり、朝飯の支度に気を配ったりしたが、寝恍けた様な締のない笑顔をして、女が起出して来る頃には、職人たちはみんな食膳を離れて、奥の工場で彼女の噂などをしながら、仕事に就いていた。 彼らが食事をするあいだ、裏でお島の洗い灑ぎをしたものが、もう二階の物干で幾枚となく、高く昇った日に干されてあった。

カーテン オーダー

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